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いあ、いあ、はすたあ! くふあやく、ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ!
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 僕は、とある学校の最も成績の優れた者が集う
Aクラスに所属していた。

とはいえ、昨年の順位は36位。
これならもういくつか順位を落としてBクラスのトップに落ち着いたほうが
いくらか気分もマシだったんじゃないかなあと思う。

これといって人目を引くような特徴もなく、
かといって周りに溶け込むのもそんなに上手くないから、
当然のごとく交友関係は狭くて浅い。

黒っぽいコケとカビがひっそりと繁殖する裏階段の片隅で、
地べたに座り込んで四角い空をぼんやりと眺めているのが
その頃の僕の唯一の楽しみだった。

それでも、波も風もない穏やかで平凡な毎日に、
僕は僕なりに満足していたのだと思うし、そう思おうと努めてもいたんだ。

季節が巡り暦が流れ続ける限り、
望むと望まざるにかかわらずいずれ変化はやってくるのだから。

ただ、まさかこんな唐突に、こんな馬鹿げた形で
こんなとんでもないものがやってくるなんて想像もしてなかったよ。

まあ、突然すぎて何があったのかいまいち分からなかったのだけれど、
とりあえず覚えている限りのことを話そうか。

まず、最初に地面がものすごい勢いで揺れ始めた。
また地震か何かかと思って気にも止めなかったけど、すぐにそうじゃないことに気づく。
揺れているのは地面だけじゃない。
壁にも階段にも、僕が左手で支えている昼食の弁当箱にも振動が及んでいて、
それは揺れているというよりむしろ、波打ってると言った方が正確だった。

次第に激しくなる波はやがて渦となり、
不規則な振動はある一点を中心にして螺旋を描くように収束していった。
空も樹もコンクリートの塊も、
塩素系漂白剤で揉みくちゃにしたみたいに真っ白に染まる。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

あの日、この場所に飛ばされてからどれだけの時間が経っただろう。

僕達は瓦礫の山の間を歩きつつ、辺りに注意を向けていた。

瓦礫は所々人工物としての形質を残していて、
かろうじてそれがかつて建物の一部であったことを物語っている。

コロニーの人達は、この世界がこうなったのは核戦争のせいだと言っていたけれど、
本当に放射能の影響なんかで、あんなものがポンポン生まれたりするのかな。

突然変異種<ミュータント>、それがこの世界に生き残った僅かな人々に
さらなる深い絶望を与え続けている脅威の一つだった。

その種類は、かろうじて人の形を保っているものから、大きな獣のようなもの、
流動状のもうどうしようもない化物まで様々。

以前、メタヒューマン型の群に遭遇した時は本当にもう駄目かと思った。
強盗組織の斥候がたまたま通りがからなかったら、
僕は人数分に綺麗に引きちぎられて
今頃はあいつらの血や肉になっていたに違いない。

そうそう、この世界に蔓延るもう一つの脅威。
それは他でもない僕達、武装強盗組織の存在だ。

武力をもって集落を襲い略奪行為に手を染める無法者の集まりが、
この世界のあちこちで活動を続けている。

まあ、実際には村一つ皆殺しにして食べ物や金品をまるごといただく、
なんて非効率的なやり方をする集団は滅多にない。

うちの組織に関して言えば、初期の頃はどうだったか知らないけど、
最近はもっぱらテリトリー内の集落から上納という形で物品を徴収するだけで、
無闇に無抵抗の人間を殺したりっていうのはリーダーの取り決めで禁じられている。
時にはミュータントや他の集団の脅威から集落の人を守ることだってあるくらいだ。

とはいえ、逆らう者には容赦しないし、陰で好き勝手やってる奴も居るし、
大多数の人々にとって嫌われ者には変わりないんだけどね。

とりわけ力が強いわけでも、足が速いわけでもなく、
生き残るのに役立つ能力なんて何一つ持ち合わせていない僕が、
なんでまた彼らの仲間として迎え入れられたのかは、話すと長くなるんだけど、
要するにこの世界では、先時代の技術や文化に明るい人間は重宝されるらしい。

機械や端末の扱い方等比較的有用なものから、
歴史、学問体系、絵画、音楽などの一見無駄とも思える知識まで、
元の時代じゃ人目を引くような取り柄もなく、
平々凡々とした正六角形の能力系図を持っていたであろう自分が、
歌一つを口ずさむだけで強面なお兄様達の野太い歓声を浴びるなんてのは、
慣れていないだけになんとも言えないくすぐったさを感じてしまう。

まあリーダーが知性派の変わり者ってのもあるかもしれないけどね。
じゃなきゃ僕みたいなのなんてとっくに身包み剥がされて肉になってるか、
さもなくば奴隷商人に売り飛ばされてただろう。

それはそれとして、
たった今僕らが何故貴重な人員を大量に割いてまで
こんなミュータントの密集度が高い地区を突っ切るなどという
綱渡りにも等しい行軍を余儀なくされているかというと、
それは集金業務、つまり上納の滞っているある集落への取立てのためだった。

それは集落と言うにはあまりに小規模すぎるかもしれない、
しかしそれとは裏腹に奴らの設備はちょっとばかし物々しすぎるんじゃないかとも思う。

というのも、奴らは元研究開発型企業の流れを汲むサイバー集団で
自律兵器の扱いに極めて長けているらしく、
少人数ながらも難攻不落の要塞を築き上げているんだそうだ。

できれば最も敵に回したくない相手の一つだけれど、
それはすなわち、看過するには脅威以外の何物でもなく、
逆にうまく手中にできればこれ以上の利益をもたらす存在はない
ということを意味していた。

これまでも幾度となく手を変え品を変えて接触を試み、
そのたびに敗走を余儀なくされてきたにも関らず、
今回こうして組織の総力を挙げて挑むその裏には僕の存在があるからで、
つまるところそれは、僕がハッキングで奴らの自律兵器を無力化している隙に
攻め込むというわけでって、いやそれちょっと買い被りすぎだと思うんだけど。
ねえ、リーダー・・・正気?

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

まったく、考えてみればおかしいことだらけだ。

一体全体どこでどう間違えれば僕みたいな小市民的悪党が
たった一人で傷ついた犬を抱きかかえたまま
地雷原を丸腰で歩くなんて無茶をやらなきゃならないんだろう?

集落の入り口に辿り着いた僕らの前に伝令役として姿を現したのは、
近づく者を容赦なく蜂の巣にする自動機銃でもなく、
分厚い装甲に身を固めたロボットでもなく、
何の変哲もない一匹の犬だった。

よほど入念に躾けてあるのだろう、地雷原の中に隠された安全なルートを、
目を瞑っていても歩けるよと言わんばかりに駆け抜けてくるさまは、
さながらジャンヌダルクやモーセのごとき神性すら漂わせている。
これまで頑なに無神教を貫いてきた僕だけれど、
これを機にどこぞのカルト神でも崇めてみようかどうしようか。

愛くるしい瞳を輝かせながら尻尾を振るその毛むくじゃらの天使に、
脊髄反射で鉛弾を浴びせかけたくそ不届きな同胞にしろ、
原罪を背負うことのないこのか弱い生命体を捨石に使う奴らにしろ、
どいつもこいつも全く以って神経を疑う。

責任者はどこか?

今は奴らの要塞として機能するかろうじて倒壊を免れた廃病院を目指し、
滅茶苦茶に散布されたクレイモア地雷の検知範囲の隙間を縫うようにして、
ひたすら前へ前へと進む。

ちなみになんで僕にそんなものが分かるかっていうと、
つまるところそれは先時代の技術の賜物と言うやつで、
僕の体内には赤外線などの各種不可視光線を始め
ありとあらゆる電気信号を視覚的情報として検出するセンサーが
視神経を拡張する形で埋め込まれているからだ。

僕の暮らしていた環境では別に珍しいことじゃないけれど、
この時代の技術水準ではどうやら再現の極めて難しいものらしい。

さて、内部から集落のシステムを乗っ取り
活路を開くのが今回の任務なわけだけれど、
実は別にそこまでしなくとも上納さえ取り付けられれば本来の目的は達成される。

リーダーはやたらとでかい色付きメガネをわざとらしく人差し指で上げながら、
そのような内容のことを僕に言ってきた。

何もかも腑に落ちないことばかりだったが、
腹立たしいことに、護衛もつけずたった一人で敵地に向かわされるという
自分にとって一番理不尽かつ不利益をもたらす処遇についての理由は、
その辺りのやり取りで容易に想像がついてしまった。

単純に言ってしまえばそれは、組織内において僕という個体が、
ビジュアル的に最も警戒に値しないものであり、
ひいては交渉の場に相手を引きずり出す撒き餌として
相応しい人材と判断されたからだろう。

もし生きて帰れたならこの件に関った人間一人一人に、
くそくらえ、と言ってやりたい。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

由なき善人は存在しても、由なき悪人は存在しない。

別に奇麗事を言ってるわけでも何でもなく、
逆に言えばそれは、理由さえあれば誰もが悪人になりうるということで、
どちらかといえば諦観に近いものだったりする。

それでも、実際改めて目の前に突きつけられると、
これが中々どうして受け入れ難いものだから本当に困る。

奴らの集落に潜り込むという作戦第一段階は、
当初の懸念よりも遥かに容易く遂行することができた。
むしろ、あまりにすんなり行き過ぎたのが
今となっては問題なのだけれど・・・。

最初こそ執拗なボディチェックを受けて、
集落中の警戒の視線を体中穴だらけになるんじゃないかってくらい
浴びせられたけれど、
それにしたって包囲はされても拘束されるようなことはなかったのだから
敵対組織の潜入工作員に対するもてなしとしては
まさに破格の待遇だったと言える。

例の伝令役の犬に関してもかすり傷程度だったらしく、
数日後には僕の膝元に鼻先を擦りつけてきていた。
懐かれるようなことをした覚えはないんだけど。
もしかすると、この頭から尻尾にかけて見事な曲線美を描く毛玉の態度も
集落の面々の警戒を緩くするのに一役買っていたのかもしれない。

集落の内部は思っていたよりずっと質素だった。
そこらじゅうの廊下という廊下に自動機銃がセンサーアイを光らせていることも、
警戒ロボットが引っ切り無しに歩き回るということもない。

ざっと見たところで数十台と端末の数こそ多いものの、
会社のオフィスというより、
情報系サークルの部室棟といった方がしっくりくる。

組織への通信は秘密裏にやっていたつもりだけれど、
それすらもしかしたら容認されていたんじゃないか?

本当にこんな連中が、うちの組織と長年渡り合ってきたのだろうか。
思わず、そんな疑問を浮かべてしまう。

会話も最初はれっきとした諜報活動のつもりだったのが、
誰も彼もあまりに内情について惜しげもなく話すものだから
いつの間にやら聞き出すべきことが一つもなくなり、
あとは他愛もない世間話ばかりしていたように思う。

中でも一番よく話すようになったのは、僕がここへ来たばかりの時、
一緒になって犬の負傷の手当てや看病なんかをやっていた子だった。

てっきり医療班か何かかと思っていたのだけれど、
どうやら食料の調理、衣類の洗濯、寝具の設営などなど、
生活に必要なありとあらゆる雑用を一手に引き受けているようで、
どこぞの頭でっかちなものぐさ新入りとはえらい違いだ。

なんていうか、ものすごく生きててごめんなさいと叫びたい。

弱々しい印象なのに見た目よりずっとしっかりしていて、
自分というものをちゃんと持ってるっていうか、
それでいていつも回りに気を配っているような、
きっとこういうのを芯の強さっていうのかな。

もし組織が強硬手段に出ることになったら、
で、そのとき僕が組織の側、すなわち集落の敵として立ちはだかったとしたら。
この子は、それでもきっと自分の指で引き金を引くのだろう。
確証はないけれど、なんとなくそんな気がする。

僕と集落との場違いなほどに生暖かい関係とは裏腹に、
上納についての交渉は、難航していると言わざるを得なかった。

その理由の一つが、当初僕らが想定していたより遥かに、
集落の資源力は疲弊しきっていたということ。

考えてみれば当然かもしれない。
彼らは外敵からこの場所を守ることには長けていても、
外に出て資源を調達する術を持たない。
自給自足しようにも養分の枯れ果てた大地では芽は育たない。

この集落はいわば陸の孤島であり、
戦前から貯蔵庫に残ったままの資源をどうにかやりくりして
これまで生活を維持してきたようなものなのだ。

そしてもう一つの理由は、集落の人間が
外部への武力的干渉を極端に恐れているということ。

たとえそれがごくごく浅い利害関係であったとしても、
僕らのような武装強盗組織と手を組むことは、
略奪行為の片棒を担ぐことに他ならないと考えているらしい。

特に今回の場合、僕らの本当の狙いは食料などの物的資源よりも
むしろ集落の持つ高度な技術力や兵器の方と言っていい。
いずれは技術者の徴用という名目で人員を連れ出す可能性だって。

場合によっては組織が集落の護衛に回ることも考える、
決して悪いようにしない、と伝えたところで無駄だった。

まあ、完全に僕の独断で出任せも甚だしいんだけど、
それだけの価値がこの集落にあるのだから
あながち全くのデタラメというわけでもない。

このまま彼らが頑なな態度を取り続ければ、
組織はいよいよ当初の予定通り集落の制圧を実行に移すことになる。
そして、僕がここ居る限りそれができてしまう。

いかに屈強とはいえ、組織の連中だって待機状態を維持するのももう限界だろう。
もしかしたらとっくに何人か先走って地雷の数を減らしているかもしれない。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

自分のため、他人のため、組織のため。

みんな守るべきものがあって、そのために戦っている。

だけど僕には守るべき人も理想もない。自分自身でさえどうだっていい。

だからいつだって優柔不断で、結局何もできないのだろう。

もしかしたらそれこそが本当の邪悪というものなのかもしれない。

欲しいものが欲しいと思えなくなる。

大切なものが大切に思えなくなる。

それが本当の邪悪。

いっそ僕が絶対悪にでもなれれば・・・。
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Comment
無題
なんかマニ教思い出した。

人は悪に穢れているが、その知恵を持って内在する善を認識する事が出来る
NONAME 2010/07/01(Thu)10:47:21 編集
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