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いあ、いあ、はすたあ! くふあやく、ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ!
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 ―だから止めておくべきだったんだ!

誰にとはなく、カイは胸中で罵った。
それは周囲で逃げ惑っている仲間達に対してだったかもしれないし、
彼らの愚行をついに制することのできなかった自分自身に対してだったのかもしれない。

見張り役が奴らの姿を捉えてから間もなく最初の犠牲者となったことから考えて、
自分達が追いつかれるまでにさほどの猶予があるとも思えない。
楽観できない状況に歯噛みしつつ全身の力を振り絞って前へ進む。

と、そこでふいに全身の皮膚の表面が粟立つような気配を感じ、
反射的に地面に向かって身を躍らせる。
同時に、その脇を掠めるようにして背後から一筋の赤い光条が走った。

間一髪のところで狙いの反れた光の帯は、
運の悪いことに、前方を行く仲間の右肩を捉えていた。

「助けてくれッ!! 嫌だッ! いやだッ!!」

光は触れた箇所を中心として、肩から胴体へ、胴体から両足や頭へと広がり、
瞬く間に全身を飲み込んでいく。

「身体が・・・俺の身体がッ! ギャァァァァァァ・・・!!」

仲間の身に何が起こったのかは、わざわざ振り返らなくとも理解していた。
自分達を追っているのが何者であるかも、その理由も。

―分かっていた! 分かっていたはずなんだ! 
あんなことを続けていたらいつか必ずこうなるってことは!

光が放たれた方角を振り返ると、追跡者は思っていた以上にこちらとの距離を詰めていた。
もしかすると、わざと歩調を合わせて逃げ惑う姿を嘲笑っていたのかもしれない。

「ケケケッ、ひどい奴だなオマエ。自分だけ助かって仲間は見殺しってかァ?」

下卑た笑いの端々に、バチバチと火花が弾けるような不快な音が混ざる。
声の主は、ちょうど大型肉食獣が二本足で立ったような生き物。

ずっしりとした体躯は縦よりも若干横に長く、黄色の体毛に刺青のような黒い模様が特徴的な
典型的な人獣ワイルドマン系電気タイプのポケモンだ。
腕とは別に両肩から二本の黒い触手のような器官が生えており、
その先端は止め処なく漏れ続ける電気エネルギーで薄らと赤熱していた。

―エレキブル・・・第三進化形サードフォームだと・・・。

相手としては最悪の部類に入る。
水タイプである自分達を『駆除』するために、
電気タイプのポケモンが差し向けられるであろうことは予想していたが、
まさかこんな化物が出てくるとは思わなかった。

改めて、自分の甘さを呪う。

相次ぐ食糧不足に業を煮やした若衆が、配送中の積荷を狙おうなどと言い出した時、
群のリーダーとして、自分は止めなければならなかったのだ。

人間達による土地開発に故郷を奪われたのは事実だが、
だからといって今の時勢に盗賊行為などしようものなら、
直ちに害獣指定を受けて群ごと駆除されるのは目に見えていた。

カイは改めて、自分達を断罪する下手人の姿を睨み付ける。

先ほど自分の仲間を跡形もなく消し去った光線は、
相手が先ほどから手にしている球体から放たれたものだ。

人づてにだが、噂くらいは聞いたことがある。
おそらくあれは、人間達の間でモンスターボールと呼ばれているものだろう。
どういう仕組みになっているのかまでは知らないが、
あらゆる生命体を分子レベルで分解し擬似的な凍結処理を行うことで、
半永久的に対象の状態を保存することができる捕獲用兵器。

「ハハァ~、余程こいつが気になるみたいだなァ。
どうしたどうした? お前の仲間はここに居るぞォ~?」

エレキブルは掌の上で球体を転がしながら、
こちらの視線を絡め取るようにその双眸を向けてくる。
獲物を狙う捕食者の目・・・いや違う、あれは既に捕えた獲物を弄んで過ごす時の顔だ。

―奴の挑発に惑わされるな、陸上では力も素早さも向こうの方が断然上だ。
例えボールを奪ったところで、おいそれと逃げることなんてできやしない。

だが、今もどこかで逃走を続けている残りの仲間がこの先の川まで辿りつければ、
そしてそのまま河流に乗って海まで逃げのびることができれば、
あるいは彼らだけでも追っ手を振り切ることができるかもしれない。

カイはそう自分に言い聞かせた。

もちろん、害獣駆除部隊が目の前の第三進化形だけとは考え難いが、
たとえ数十体のうちの一体でもここで足止めができれば、必ず網はそのぶん粗くなる。

何より・・・

―一人でも多くの仲間を安全な場所まで逃がすため、最善の手を尽くす。
それが今僕に出来る、せめてもの償いだ!

渾身の力を振り絞って甲羅と後ろ足の隙間から水流を噴射する。
地面を穿つ爆音とともに瞬間的に身体が前方に押しやられ、周囲の景色がブレていく。

待ち構えていたと言わんばかりにエレキブルが球体から光線を放つ。
だが、その光線が触れる前に、カイは左手側の隙間から水を噴射してその場から横に飛びのいていた。
強制的に軌道を曲げたことによる内臓をひねり上げるような感触に歯を食いしばって耐える。

一方、初手をかわされたことが余程意外だったのか、
エレキブルの目には感心とも驚嘆とも取れる色が浮かんでいた。
一瞬の逡巡の末に、こちらに向き直ると、再び光線を放つ。

―電気タイプか・・・確かに相性は悪い。
だが、だからといって水タイプの技が通用しないわけじゃない!

三度目の噴射でカイは地面に両足を触れることなく、上空へとその身を躍らせた。
それと同時に頭部を殻の中に引っ込め、周囲を取り巻く水氣ジャラ
その空洞の中心一点に集束させる。

彼に限らず、多くのポケモンというのは、
生物として本来持ちうるキャパシティを超越し、
時として物理法則すら無視した能力を発揮することができる。
その力の源となるのが、プラーナというものの存在だ。
水タイプのポケモンが主に行使するのは水氣と呼ばれる純粋な水の氣で、
カイのそれは、小柄な自らの体積を優に越える水量を一度に生み出すことが可能だった。

甲羅の中で生成された膨大な量の水は、
巨木を薙ぎ倒すほどの水圧と質量を伴った奔流となって、
轟音とともに眼下のエレキブルを飲み込む。

ものの数秒後には、即席の滝が直撃した地面は深く抉れて、
そこに流れ込んだ水が泥と混じり茶褐色に濁った水溜りを形成していた。
水溜りの周囲には、滝壺を中心に地面ごと掘り返された辺りの草木が無残な姿を晒している。

その水溜りの淵にめり込むようにして、エレキブルは立っていた。
見せ付けるような動作で身体に付着した泥を払うと、
口の端を目一杯広げた凄絶な笑みを浮かべてこちらを凝視してくる。

慣れない大技の反動か身体の節々に倦怠感の波が襲ってくるが、
そこを敵に悟られてはまずい。
揺らぐ視界を目を窄めて誤魔化し、睨み返す。

それが余程気に食わなかったのか、エレキブルの表情から愉悦の色が消える。

「なんだてめェ・・・そのツラはよォ?
まさかこの程度で俺様に勝とうなんて思っちゃいないよなァ?」

カイは胸中で苦笑する。
もちろん、そんなことはこれっぽちも期待していない。
今の一撃が、彼にとっては持てる力の全てを振り絞った最大の切り札で、
それをもってしても膝をつかせることすらできない相手に対し
致命的な傷を負わせる手段など皆無に等しい。

エレキブルは、短く息を吐くと、
持っていたボールを腰のホルスターに収めた。

「手加減してりゃ調子コキやがって・・・。
生け捕りにしろとのお達しだが、面倒臭ェのはもうゴメンだ。
テメェはこの場で炭にしてやるよ!」

背部から伸びた二本の触手の先に、
バチバチと耳障りな音を立てて眩い光が躍る。
正視すれば網膜を焼くほどの光量が、一瞬にして膨れ上がり、
波のようにうねりながら空間を埋め尽くしていく。

電撃波。

波の性質を持たせた雷氣ヴァジュラを展開し、周囲の空間そのものを帯電させる不可避の電撃。

咄嗟に水流の逆噴射で距離をとるも、物体の運動と放電では速度が違いすぎる。

「ヒハハハッ! そうだ、逃げろ逃げろ!
もっとも、テメェがいくらチョコチョコ逃げ回ったところで、
こいつからは逃れられねえだろォがな!!」

体中の神経という神経を引き千切られるような激痛がカイを襲った。
蒸発した水分が皮膚の表面を破裂させ、ブチブチという音を立てている。
視界は完全に奪われ、それでも地面を掻き毟りながら、カイは水流を噴射し続けた。

実際にはほんの十数秒間の出来事だったが、
その間に湿地帯のようだった地面はほとんど水分を奪われ、
表皮を真っ黒に染められた倒木は、苦い香りのする煙を燻らせていた。
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Comment
てすとてすと
 てすとてすとてすと。
ドクターP(どピクミン) 2010/04/10(Sat)21:17:13 編集
無題
(゜∀。)ワヒャヒャヒャヒャヒャヒャ
NONAME 2010/04/10(Sat)22:46:04 編集
無題
ヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ
NONAME 2010/04/10(Sat)22:53:27 編集
無題
エヘエヘエヘヘヘエエエヘッヘヘ
NONAME 2010/04/11(Sun)00:31:51 編集
無題
ポケモンは知らんけど面白かった。
 ドクターP先生の次回作にご期待ください!
NONAME 2010/04/11(Sun)00:49:10 編集
無題
おじゃましまっす
最初のモンスターボールの下りで不覚にもワロタw
こういう視点で見るポケモンもなかなか新鮮で面白いもんだねw続き待ってます!
NONAME 2010/04/11(Sun)01:11:29 編集
無題
ピカチュウ!
NONAME 2010/04/11(Sun)11:20:56 編集
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