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いあ、いあ、はすたあ! くふあやく、ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ!
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 第二次魔導戦争・・・それは読んで字のごとく
魔導師の魔導師による魔導師のための戦争なのだ。
そして第二次だから当然第一次があったわけで、
しかもそれは当然第一次の頃より技術も規模も進歩しており、
初等部の教科書に写真付きで載るような
魔法界の歴史に残る大事件なのだ。

少なくとも僕はそのつもりであったし、
利害関係という太くて脆い糸で結ばれた仲間たちも
それに見合うだけの決意と覚悟を胸に秘めて
この騒動を起こしたに違いない。そうであるべきだ。

たとえそれが蜂起から数時間ほどで
魔導師ですらないたった数人の民間人によって鎮圧され、
『暗闇の街角事件』などといういかにも地方の三流ゴシップ誌が
ページ合わせのために取り上げそうな
都市伝説めいた呼称で呼ばれることになろうとも。

そしてたった今、
その第二次魔導戦争もとい暗闇の街角事件の首謀者である僕は
敵対勢力の手によってキャンピングカーの後部スペースに拘束されていた。

後部スペースは四畳一間ほどあり、
中央の机を囲うようにして備え付けの形で座席が配置されている。
夜間だというのに照明はついておらず、
視認できるのは僕が座っている場所から机を挟んで反対側に三人ほど。
いずれも先ほど僕らと一戦交えた民間人だった。

仲間の魔導師達がどこに拘束されているか、
はたまたとっくに政府に引き渡されているかは知る由もないが、
このザマではいずれにせよ一斉蜂起は失敗に終わったことだろう。

僕はそんな彼らを相手に熱弁を奮っていた。
半ばヤケクソで。

「魔法界は腑抜けている。このままでは技術革新の煽りを受け、
やがては魔法そのものが歴史の波に飲まれ衰退するだけだ。
まずは大規模な二極化、それをもとにした階級制度が必要なのさ」

そう、全ては魔法界のため。
僕は歴史の代弁者として魔導戦争という形で引き金を引いただけにすぎない。

金で動く人間には金を、名声で動く人間には名声を餌に
ゆっくりとだが着実に賛同者を集め、
いずれは大陸全土を巻き込む壮大な計画の足がかりとして役所を占拠、
政府との交渉を有利に進める予定だったのだが。

綿密な計画の上で実行に踏み切ったはずが、結果は見ての通りだ。
闇に乗じて奴らが侵入してきたと報せを受けた頃には、
僕の首元には既にナイフが突きつけられていた。

連中がいかにして結界を破り、探知もされることなく
これだけ大勢の魔導師の監視の目を掻い潜って来れたかはわからないが、
聞けば魔導師でも軍人でも警察機関でもない、
ただの学生だというではないか。

そしてこの何の力も持たないはずの素人は、
僕が、いや僕らが何年もかけて積み上げてきた大儀を
あっさりと切り捨てるようにこう言い放った。

「くだらねー・・・お前は最底辺の魔導師だよ」

なんと、言うに事欠いてこの男、
仮にもアカデミー首席であるこの僕に対して
最底辺とはまったく聞き捨てならない。嫌がらせか?
勝てば官軍とでも言うつもりか?
敗者に人権はないのか?

「へえ、君に何が分かるって?」

頭に上りかけた血を無理矢理押し下げ平静を装うのに必死で、
紡ぎ出した言葉は悲しいほどに陳腐なものだった。
これじゃまるで負け惜しみじゃないか。

こんな奴に分かってもらえなくたっていい。
魔導師でもない奴に僕らの世界の話が通じるとは思ってないし、
そもそも臆面もなく他人を罵倒するような奴に
僕らの問題に触れて欲しくない。
バカっていうやつがバカなんですよ。バーカバーカ。

エンジン音が止まる。
目的地に到着したのか、あるいはコンビニにでも寄って休憩するつもりなのか。
唐突に音と震動が途切れたことで静寂が余計に際立ち、嫌でも緊張感が高まる。
そういえば目の前の連中の他に運転手も居るんだっけ・・・。

「分かるさ、お前がやってることはただの犯罪なんだよ。
秩序を無視して自分勝手な思い込みで力を振り回してるだけだ」

もはやただの雑音だった。
耳元を飛び回る蟲の羽音のように、不快感を催すだけの言葉。
犯罪や秩序なんて最初からどうでもいい。
自分勝手なのもとうに理解した上でやってることだ。
っていうか、民間人のくせして危険区域に乗り込んだ挙句、
中の人間を片っ端からぶっ飛ばして首謀者を車で連れ去るってのは
果たして秩序正しい行動なんだろうか。

こちらから何を言っても無駄だし、
元よりこちらも聞く耳を持たないはずだった。

しかし、次に放たれた一言には否が応にも反応させられることになる。

「それでお前が助けようとしてる相手が喜ぶとでも思ってんのか?」

「トシ君は関係ない!」

思わず声を荒らげてしまった。
それにしても、何故こいつが彼のことを知っている?

これは第二次魔導戦争。
魔法界に新たなる秩序と力をもたらす
魔導師の魔導師による魔導師のための戦争なのだ。
たまたまその先に僕の本当の目的があるだけで、
たとえ本質的には同志を欺くことになっても何ら支障はない。

まあ実のところ、大儀なんて大仰なもの背負って前に進めるほど
僕は大物ってわけじゃない。

まあどっちにせよ終わってるよね、この状況。
こいつらが善人なら僕の身柄を警察や政府に引き渡すだろうし、
悪党なら組織との取引にでも使うだろう。
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 最近知ったことなんだけれど・・・
どうやら見栄っ張りっていうのは
たとえ死んでも化けても生まれ変わっても治ることのない
馬鹿よりもタチの悪い不治の病のようなものらしい。

そもそも見栄を張るというのは
一言でいえばやせ我慢をするということであり、
つまるところそれは、実質以上に自分を高く優秀に見せることで
絶えず燻り続ける劣等感を払拭しようという試みの一つに過ぎない。

少なくとも僕にとっては・・・。

で・・・まあ、
この底のない谷に聳え立つ石柱の装飾に無理矢理足を掛けて
いつ果てるともない悠久の時を一人ぼっちで佇むなんていう、
故も理屈も大義名分も定かではない
摩訶不思議かつ意味不明な奇行に走らざるを得なくなったのも、
その病魔をひたすら放置どころか助長すらさせてまで
のさばらせ続けた報いだというのだろうか。

言うまでもないと思うけど、正直死ぬほどおっかない。
気を抜くと足が竦んで立っているのか座っているのかも分からなくなる。
今にもその場に崩れ落ちたい衝動に駆られるも、
僕にとってそのような醜態を晒すのは許されざることであり、
そもそもこの足場というにはあまりにも頼りない出っ張りが、
それを許容するだけの懐の広さを持ち合わせていないことは
火を見るより明らかというものだろう。

僕の佇む石柱から深い谷底を挟んで
少しばかり離れた高台広場に目をやると、
そこでは我らが同志を含む雲合霧集の者達が、
飲めや食えやのドンチャン騒ぎを楽しんでいた。

・・・はて、僕らは何でまたこんなところで宴なんて開いているんだろう?
年に何回こういった席を設けているかは
いちいち覚えていないので定かではない。
まあ、僕らにとっては楽しければいいという理由だけで十分なのだけれど。

かく言う僕だって別に楽しんでいないわけじゃなく、
ただ単に自分が輪の中に入ってどうこうするよりは
こういう場所からしみじみと眺めてる方が好きなんだから仕方がない。

ただ、少し見栄を張りすぎて文字通りの立ち位置を間違えた、それだけの話。
今回ばっかしはそれが致命的すぎる気もするんだけど、まあ愛嬌愛嬌。
実際こういうポジションは多少奇行じみてるくらいで丁度いいんだよ。

ところで、宴の輪からやや離れたところに立っている
白い着物姿の人影がさっきから気になるんだけどあれは一体何なんだ?
岸壁に生えた細い柳の枝に引っかかった
これまた白い円盤のようなものをじっと眺めているみたいだけれど。

「あのー、それとってくださいー」

白い人影はこちらに気づくや否や、そんなことを言ってきた。
見かけによらず人使いの荒い子だなあ。
ま、頼まれちゃ仕方ない、この僕が一肌脱いでやろうじゃないか。

本当は慎重に這って進みたくて仕方ないけれど、
努めて平然と、溝に足を引っ掛けるようにして歩いていく。

ああ、気失いそう・・・。

「怖くないんですか? 危ないのに」

「いやいや、うちも一応妖怪だし、死にゃしないって」

もちろん大見栄もいいとこだ。
この高さに加えて谷間を吹き抜ける風も強く、
ほんの少し足を滑らせただけでタダじゃ済まない。

自分の生命力がどの程度かなんて把握してないし、
それを身を持って実況検分するつもりも更々ない。

円盤が引っかかってる崖までは少し距離がある。
変に脚力を上乗せすると危なっかしいので、
意識を集中して、念動制御だけで跳ぶ。

重力加速度を無視した等速運動で円盤を回収し
依頼人に渡してやったところで、
僕はようやく、その存在に覚えがあることに気づいた。

ああ・・・この子は確か、長の縁者の。

その子は、僕らが身を置くこの小社会、
すなわち今まさにこの広場で勝手気ままに過ごす魑魅魍魎どもの中で、
最も表舞台に立つ存在としての地位を確立している
いわばの偶像のような存在だった。
名前は何といったか・・・。

言うまでもなく僕とは対極に位置する人種で、
決して関わることもましてや迎合することも
ないと思ったのだけれど・・・。

ともあれ、今日は疲れたし
朝まで付き合う気分でもないし
帰ってネトゲでもしよう。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

おまけ:
ところ変わって、自室のコタツでネトゲしていたら
隣で見知らぬニィちゃんがBLアニメ見てたでござるの巻。

僕「君は祭り行かないの?」

人「・・・」

僕「なあ・・・」

人「・・・」

僕「何なんだよこの距離感はッ!?」

人「いや・・・今アニメ見てるんで」

僕「ちなみにそのタイトルの○○○とは××××××の略だ。
BLというカテゴリーに属するが、
少なくともアニメにおいては直接的な描写はない」

人「流石、詳しいっすなあ」

僕「まあでも、それ結構面白いだろ?」

人「面白いな。二度と見ないけど」

・・・ていうか、何で居るんだろうこの人。
 僕は、とある学校の最も成績の優れた者が集う
Aクラスに所属していた。

とはいえ、昨年の順位は36位。
これならもういくつか順位を落としてBクラスのトップに落ち着いたほうが
いくらか気分もマシだったんじゃないかなあと思う。

これといって人目を引くような特徴もなく、
かといって周りに溶け込むのもそんなに上手くないから、
当然のごとく交友関係は狭くて浅い。

黒っぽいコケとカビがひっそりと繁殖する裏階段の片隅で、
地べたに座り込んで四角い空をぼんやりと眺めているのが
その頃の僕の唯一の楽しみだった。

それでも、波も風もない穏やかで平凡な毎日に、
僕は僕なりに満足していたのだと思うし、そう思おうと努めてもいたんだ。

季節が巡り暦が流れ続ける限り、
望むと望まざるにかかわらずいずれ変化はやってくるのだから。

ただ、まさかこんな唐突に、こんな馬鹿げた形で
こんなとんでもないものがやってくるなんて想像もしてなかったよ。

まあ、突然すぎて何があったのかいまいち分からなかったのだけれど、
とりあえず覚えている限りのことを話そうか。

まず、最初に地面がものすごい勢いで揺れ始めた。
また地震か何かかと思って気にも止めなかったけど、すぐにそうじゃないことに気づく。
揺れているのは地面だけじゃない。
壁にも階段にも、僕が左手で支えている昼食の弁当箱にも振動が及んでいて、
それは揺れているというよりむしろ、波打ってると言った方が正確だった。

次第に激しくなる波はやがて渦となり、
不規則な振動はある一点を中心にして螺旋を描くように収束していった。
空も樹もコンクリートの塊も、
塩素系漂白剤で揉みくちゃにしたみたいに真っ白に染まる。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

あの日、この場所に飛ばされてからどれだけの時間が経っただろう。

僕達は瓦礫の山の間を歩きつつ、辺りに注意を向けていた。

瓦礫は所々人工物としての形質を残していて、
かろうじてそれがかつて建物の一部であったことを物語っている。

コロニーの人達は、この世界がこうなったのは核戦争のせいだと言っていたけれど、
本当に放射能の影響なんかで、あんなものがポンポン生まれたりするのかな。

突然変異種<ミュータント>、それがこの世界に生き残った僅かな人々に
さらなる深い絶望を与え続けている脅威の一つだった。

その種類は、かろうじて人の形を保っているものから、大きな獣のようなもの、
流動状のもうどうしようもない化物まで様々。

以前、メタヒューマン型の群に遭遇した時は本当にもう駄目かと思った。
強盗組織の斥候がたまたま通りがからなかったら、
僕は人数分に綺麗に引きちぎられて
今頃はあいつらの血や肉になっていたに違いない。

そうそう、この世界に蔓延るもう一つの脅威。
それは他でもない僕達、武装強盗組織の存在だ。

武力をもって集落を襲い略奪行為に手を染める無法者の集まりが、
この世界のあちこちで活動を続けている。

まあ、実際には村一つ皆殺しにして食べ物や金品をまるごといただく、
なんて非効率的なやり方をする集団は滅多にない。

うちの組織に関して言えば、初期の頃はどうだったか知らないけど、
最近はもっぱらテリトリー内の集落から上納という形で物品を徴収するだけで、
無闇に無抵抗の人間を殺したりっていうのはリーダーの取り決めで禁じられている。
時にはミュータントや他の集団の脅威から集落の人を守ることだってあるくらいだ。

とはいえ、逆らう者には容赦しないし、陰で好き勝手やってる奴も居るし、
大多数の人々にとって嫌われ者には変わりないんだけどね。

とりわけ力が強いわけでも、足が速いわけでもなく、
生き残るのに役立つ能力なんて何一つ持ち合わせていない僕が、
なんでまた彼らの仲間として迎え入れられたのかは、話すと長くなるんだけど、
要するにこの世界では、先時代の技術や文化に明るい人間は重宝されるらしい。

機械や端末の扱い方等比較的有用なものから、
歴史、学問体系、絵画、音楽などの一見無駄とも思える知識まで、
元の時代じゃ人目を引くような取り柄もなく、
平々凡々とした正六角形の能力系図を持っていたであろう自分が、
歌一つを口ずさむだけで強面なお兄様達の野太い歓声を浴びるなんてのは、
慣れていないだけになんとも言えないくすぐったさを感じてしまう。

まあリーダーが知性派の変わり者ってのもあるかもしれないけどね。
じゃなきゃ僕みたいなのなんてとっくに身包み剥がされて肉になってるか、
さもなくば奴隷商人に売り飛ばされてただろう。

それはそれとして、
たった今僕らが何故貴重な人員を大量に割いてまで
こんなミュータントの密集度が高い地区を突っ切るなどという
綱渡りにも等しい行軍を余儀なくされているかというと、
それは集金業務、つまり上納の滞っているある集落への取立てのためだった。

それは集落と言うにはあまりに小規模すぎるかもしれない、
しかしそれとは裏腹に奴らの設備はちょっとばかし物々しすぎるんじゃないかとも思う。

というのも、奴らは元研究開発型企業の流れを汲むサイバー集団で
自律兵器の扱いに極めて長けているらしく、
少人数ながらも難攻不落の要塞を築き上げているんだそうだ。

できれば最も敵に回したくない相手の一つだけれど、
それはすなわち、看過するには脅威以外の何物でもなく、
逆にうまく手中にできればこれ以上の利益をもたらす存在はない
ということを意味していた。

これまでも幾度となく手を変え品を変えて接触を試み、
そのたびに敗走を余儀なくされてきたにも関らず、
今回こうして組織の総力を挙げて挑むその裏には僕の存在があるからで、
つまるところそれは、僕がハッキングで奴らの自律兵器を無力化している隙に
攻め込むというわけでって、いやそれちょっと買い被りすぎだと思うんだけど。
ねえ、リーダー・・・正気?

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

まったく、考えてみればおかしいことだらけだ。

一体全体どこでどう間違えれば僕みたいな小市民的悪党が
たった一人で傷ついた犬を抱きかかえたまま
地雷原を丸腰で歩くなんて無茶をやらなきゃならないんだろう?

集落の入り口に辿り着いた僕らの前に伝令役として姿を現したのは、
近づく者を容赦なく蜂の巣にする自動機銃でもなく、
分厚い装甲に身を固めたロボットでもなく、
何の変哲もない一匹の犬だった。

よほど入念に躾けてあるのだろう、地雷原の中に隠された安全なルートを、
目を瞑っていても歩けるよと言わんばかりに駆け抜けてくるさまは、
さながらジャンヌダルクやモーセのごとき神性すら漂わせている。
これまで頑なに無神教を貫いてきた僕だけれど、
これを機にどこぞのカルト神でも崇めてみようかどうしようか。

愛くるしい瞳を輝かせながら尻尾を振るその毛むくじゃらの天使に、
脊髄反射で鉛弾を浴びせかけたくそ不届きな同胞にしろ、
原罪を背負うことのないこのか弱い生命体を捨石に使う奴らにしろ、
どいつもこいつも全く以って神経を疑う。

責任者はどこか?

今は奴らの要塞として機能するかろうじて倒壊を免れた廃病院を目指し、
滅茶苦茶に散布されたクレイモア地雷の検知範囲の隙間を縫うようにして、
ひたすら前へ前へと進む。

ちなみになんで僕にそんなものが分かるかっていうと、
つまるところそれは先時代の技術の賜物と言うやつで、
僕の体内には赤外線などの各種不可視光線を始め
ありとあらゆる電気信号を視覚的情報として検出するセンサーが
視神経を拡張する形で埋め込まれているからだ。

僕の暮らしていた環境では別に珍しいことじゃないけれど、
この時代の技術水準ではどうやら再現の極めて難しいものらしい。

さて、内部から集落のシステムを乗っ取り
活路を開くのが今回の任務なわけだけれど、
実は別にそこまでしなくとも上納さえ取り付けられれば本来の目的は達成される。

リーダーはやたらとでかい色付きメガネをわざとらしく人差し指で上げながら、
そのような内容のことを僕に言ってきた。

何もかも腑に落ちないことばかりだったが、
腹立たしいことに、護衛もつけずたった一人で敵地に向かわされるという
自分にとって一番理不尽かつ不利益をもたらす処遇についての理由は、
その辺りのやり取りで容易に想像がついてしまった。

単純に言ってしまえばそれは、組織内において僕という個体が、
ビジュアル的に最も警戒に値しないものであり、
ひいては交渉の場に相手を引きずり出す撒き餌として
相応しい人材と判断されたからだろう。

もし生きて帰れたならこの件に関った人間一人一人に、
くそくらえ、と言ってやりたい。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

由なき善人は存在しても、由なき悪人は存在しない。

別に奇麗事を言ってるわけでも何でもなく、
逆に言えばそれは、理由さえあれば誰もが悪人になりうるということで、
どちらかといえば諦観に近いものだったりする。

それでも、実際改めて目の前に突きつけられると、
これが中々どうして受け入れ難いものだから本当に困る。

奴らの集落に潜り込むという作戦第一段階は、
当初の懸念よりも遥かに容易く遂行することができた。
むしろ、あまりにすんなり行き過ぎたのが
今となっては問題なのだけれど・・・。

最初こそ執拗なボディチェックを受けて、
集落中の警戒の視線を体中穴だらけになるんじゃないかってくらい
浴びせられたけれど、
それにしたって包囲はされても拘束されるようなことはなかったのだから
敵対組織の潜入工作員に対するもてなしとしては
まさに破格の待遇だったと言える。

例の伝令役の犬に関してもかすり傷程度だったらしく、
数日後には僕の膝元に鼻先を擦りつけてきていた。
懐かれるようなことをした覚えはないんだけど。
もしかすると、この頭から尻尾にかけて見事な曲線美を描く毛玉の態度も
集落の面々の警戒を緩くするのに一役買っていたのかもしれない。

集落の内部は思っていたよりずっと質素だった。
そこらじゅうの廊下という廊下に自動機銃がセンサーアイを光らせていることも、
警戒ロボットが引っ切り無しに歩き回るということもない。

ざっと見たところで数十台と端末の数こそ多いものの、
会社のオフィスというより、
情報系サークルの部室棟といった方がしっくりくる。

組織への通信は秘密裏にやっていたつもりだけれど、
それすらもしかしたら容認されていたんじゃないか?

本当にこんな連中が、うちの組織と長年渡り合ってきたのだろうか。
思わず、そんな疑問を浮かべてしまう。

会話も最初はれっきとした諜報活動のつもりだったのが、
誰も彼もあまりに内情について惜しげもなく話すものだから
いつの間にやら聞き出すべきことが一つもなくなり、
あとは他愛もない世間話ばかりしていたように思う。

中でも一番よく話すようになったのは、僕がここへ来たばかりの時、
一緒になって犬の負傷の手当てや看病なんかをやっていた子だった。

てっきり医療班か何かかと思っていたのだけれど、
どうやら食料の調理、衣類の洗濯、寝具の設営などなど、
生活に必要なありとあらゆる雑用を一手に引き受けているようで、
どこぞの頭でっかちなものぐさ新入りとはえらい違いだ。

なんていうか、ものすごく生きててごめんなさいと叫びたい。

弱々しい印象なのに見た目よりずっとしっかりしていて、
自分というものをちゃんと持ってるっていうか、
それでいていつも回りに気を配っているような、
きっとこういうのを芯の強さっていうのかな。

もし組織が強硬手段に出ることになったら、
で、そのとき僕が組織の側、すなわち集落の敵として立ちはだかったとしたら。
この子は、それでもきっと自分の指で引き金を引くのだろう。
確証はないけれど、なんとなくそんな気がする。

僕と集落との場違いなほどに生暖かい関係とは裏腹に、
上納についての交渉は、難航していると言わざるを得なかった。

その理由の一つが、当初僕らが想定していたより遥かに、
集落の資源力は疲弊しきっていたということ。

考えてみれば当然かもしれない。
彼らは外敵からこの場所を守ることには長けていても、
外に出て資源を調達する術を持たない。
自給自足しようにも養分の枯れ果てた大地では芽は育たない。

この集落はいわば陸の孤島であり、
戦前から貯蔵庫に残ったままの資源をどうにかやりくりして
これまで生活を維持してきたようなものなのだ。

そしてもう一つの理由は、集落の人間が
外部への武力的干渉を極端に恐れているということ。

たとえそれがごくごく浅い利害関係であったとしても、
僕らのような武装強盗組織と手を組むことは、
略奪行為の片棒を担ぐことに他ならないと考えているらしい。

特に今回の場合、僕らの本当の狙いは食料などの物的資源よりも
むしろ集落の持つ高度な技術力や兵器の方と言っていい。
いずれは技術者の徴用という名目で人員を連れ出す可能性だって。

場合によっては組織が集落の護衛に回ることも考える、
決して悪いようにしない、と伝えたところで無駄だった。

まあ、完全に僕の独断で出任せも甚だしいんだけど、
それだけの価値がこの集落にあるのだから
あながち全くのデタラメというわけでもない。

このまま彼らが頑なな態度を取り続ければ、
組織はいよいよ当初の予定通り集落の制圧を実行に移すことになる。
そして、僕がここ居る限りそれができてしまう。

いかに屈強とはいえ、組織の連中だって待機状態を維持するのももう限界だろう。
もしかしたらとっくに何人か先走って地雷の数を減らしているかもしれない。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

自分のため、他人のため、組織のため。

みんな守るべきものがあって、そのために戦っている。

だけど僕には守るべき人も理想もない。自分自身でさえどうだっていい。

だからいつだって優柔不断で、結局何もできないのだろう。

もしかしたらそれこそが本当の邪悪というものなのかもしれない。

欲しいものが欲しいと思えなくなる。

大切なものが大切に思えなくなる。

それが本当の邪悪。

いっそ僕が絶対悪にでもなれれば・・・。
 僕はとある悪の秘密結社に所属していた。

組織の他の部隊がどの程度の規模かは知らないけど、
少なくとも僕の所属する実動部隊は10人足らずの構成で
僕はその中でもNo.6というコードネームで呼ばれていた。

まあ、悪の秘密結社といっても、
やってることは集団強盗、人攫い、爆破工作、と
そこらの犯罪組織と何ら変わりやしない。

そのくせ財政は火の車。
構成員は住所不定のアジト住まいがほとんどだったから、
たまに豪勢に鍋パーティーでもやろうものなら
僅かな肉を取り合う骨肉の争いで、そりゃもう大騒ぎだった。

とはいえ、それはそれで結構楽しくやってたんだよ、僕らなりにね。
あんなことが起こるまでは。

その日、同期のNo.7と一緒に本部の門をくぐると、
門の前で神妙な面持ちで空を見上げるNo.1とばったり出くわしたんだ。

No.1「どうやら、困ったことになったようだよ・・・」

No.1は、見た目は小柄なお婆ちゃん。
創立時から組織に居る最古参で、
腕自慢揃いの実働部隊にあって指揮官のような地位にいるわけだけど、
その実力は未知数っていうか、
ぶっちゃけ誰もこの人が戦ってるところを見たことない。

そんなミステリアスな僕らのリーダーの話によると、
どうやら同じ部隊内のNo.5が突然組織を裏切り、暴動を起こしているらしい。

彼は開発中の新素材であるカーボナイト製の糸を勝手に持ち出して、
既にNo.2&3とNo.4を倒し、単身で本部の中枢へと向かっているのだそうだ。

傍らには黒い糸でがんじがらめにされたNo.2と3が
無残な姿で横たわっていた。
とりあえず机の上のハサミで糸を切って助けてあげようとしたんだけど、
流石カーボナイト製だけあって、傷一つつけられやしない。

ちなみにNo.2と3はいつもコンビで活動している戦闘員だ。
No.3の方の正体は手がいくつもある不細工な木製の人形だけど、
動いたり喋ったり時にはちゃんと食事もしていた。
No.2の腹話術なのか自由意思を持って動いているのかは誰にも分からない。
まあ僕は後者のつもりで接してるけどね。だってその方が面白いし。

それにしても、特殊工作メインのこの二人(?)はともかく、
No.4までやられるなんて信じられない。

No.4は上背も横幅も普通の人間の倍以上ある巨体でありながら
びっくりするほど俊敏な動きをする、部隊内でも1、2を争う武闘派だ。
空中の相手に何度も蹴りを叩き込むカンフーの妙技は、
到底真似できるもんじゃない。

No.5の方はといえば、強面ではあるものの線の細い印象が強く
どちらかというと穏健派のイメージが強い。
また、実は密かに料理が趣味で、
たまの休日なんかにはみんなの前でその腕を披露してくれたりもする。

そんな彼が組織に不義理を働いた挙句仲間を手にかけるなんて、
なんだか僕まで裏切られたみたいな気分でガッカリだよ。

僕らがNo.2&3に絡みついた糸を解こうと奮闘していると、
そこへやってきたのがNo.8。
黒光りする皮のコートをはためかせながら歩く彼は、
諜報、工作、対人対兵器などあらゆる任務を万能にこなし、
その実力は文句なしのトップクラス。

ただ、一つだけ残念なのは・・・

No.8は粗方の事情を聞くと「ふん」と一息だけ発して、
そのまま奥へスタスタと歩いていってしまった。

あれでもう少し協調性っていうか、
愛想みたいなもんがあれば言うことなしなんだけどなあ。

とりあえず、このままNo.5を放っておくわけにもいかないということで、
ひとまずNo.5の捕縛が本日の僕らの任務となった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

ところ変わって、場所は本部中枢にほど近い演習場。
僕とNo.7は、そこでNo.5を迎え撃つべく待ち伏せをしていた。

上からのお達しでは、標的の生死は問わないんだそうだ。
とはいえ、やっぱりかつての仲間を始末するのは気が進まない。
少し離れた所に立っているNo.7も同じ気持ちなんだろうか。

No.7「気をつけろ、来るぞ」

その声で我にかえって入り口の方を見やると、そこにNo.5の姿があった。
彼は身体の至るところから血を流していて、少し足を引きずってもいた。

やはり、あのNo.4を相手にして無傷で済むわけはなかったのだ。
まあ、本部には当然僕ら以外にも警備の人間が大勢いるわけだから、
どの傷をどこで負ったのかなんて知る由もないのだけれど。

これなら楽勝かな、そんな考えが頭を過ぎった次の瞬間、
相棒のNo.7の全身に無数の黒い糸が絡みついた。

まずい!

僕は慌てて両手から腕の長さと同じくらいの刃渡りの剣を出して、
目の前のNo.7を捕えている敵へと一直線に駆け出した。

アストラルウェポン。
精神エネルギーを実体化させて刃物や飛び道具を生み出す力。
これが組織の実働部隊の一員たる僕の能力だ。

でもまあ、その時点でもうなんとなく分かってたんだよね。
こりゃ僕らが束になったところで止められそうもないって。

だからもう、瞬く間に手足を黒い糸に絡め取られて
身動きが取れなくなったその瞬間も、
ああ、やっぱりそうだよなーって、特に驚いたりはしなかったんだ。

No.5はぐるぐる巻きの僕らにトドメをさすこともなく、
よろめきながら奥へと歩いていく。

まあ、僕らがやられたからには次に動くのはNo.8だろう。
いくら今のNo.5が強くたって、あいつを敵に回せば必ず殺される。

僕「ていうか、おなかすいたー」

No.7「あいつに作ってもらえばいいだろ」

僕「No.5ー、なんか作ってよ」

とか言って、この状況で作ってくれるわけないよね。

すると、No.5は無言のままおもむろにカセットコンロを取り出し、
鍋の支度を始めたのだ。

あ、作ってくれるんだ・・・。

だだっ広い演習場の真ん中で、
僕らは三人で鍋を囲むことにした。
なにこのシュールな光景。こんなことしてていいのかな。

で、No.5が組織を裏切った理由はというと、
何でも僕らが先日の任務で誘拐した対象が、
死んだ親友の妹だったかららしい。

しかも、その子は未だに本部内の実験施設に幽閉されたままで
彼はそれをたった一人で助けようとしているとか。

あー、こりゃキツイ。

今ならまだ間に合うよ考え直せーって言ったところで無駄だろうし、
そもそも今更後へ引けるような問題でもないよなあ。

僕なんてもう何にも捨てるもんないから
そういうのいまいちよくわかんないんだけどさ。

とりあえず、お腹も膨れたところで・・・
行くってんなら止めないけどね。
僕だってもう痛いのやだし。

No.7「この先にはNo.8がいる。もう俺達の出る幕はねーよ」

そりゃそーなんだけどね。

なんかこう・・・。

煮え切らないっていうか・・・。

モヤモヤするなあ・・・。

あー、やだやだ・・・。
 やつらが軍隊なのかテロリストなのか、
あるいはもっと益体もない何者かなのかは知らない。知りたくもない。

ただ一つだけ確かなのは、たった今僕らの村に火を放っているのが
逆らう相手は拷問にかけて殺す、逆らわない相手はいたぶった挙句に殺す、
つまるところそういう類の連中だということ。

家々は一つ残らず焼け落ち、方々で罵声と悲鳴があがる中、
どうせ逃げ場がないならと、僕はとあるスナイパーの人と取引をしたのだ。

自分が広場の石の上に腰掛けたら、一思いに頭を狙ってください、って。

立ち上る炎に煌々と照らされるその石は、
座ってみると服の上からでも分かるくらい固くてひんやりとしていた。

膝に突っ張るように置いた手が、どうしようもなく震えている。
茂みに潜んだスナイパーの人が僕のこめかみに照準を合わせて引き金を引くまでの僅かな時間。
たったそれだけのことなのに数十秒にも数分にも感じられた。

死ぬのが怖いわけじゃない。
存在の消滅に関しては幾度となく頭の中でシミュレーションを繰り返してきたはずだ。
ただ純粋に、やっぱ痛いんだろうなとか、意識が消えるまでどのくらいかかるのかなとか、
そんなことばかり考えていたんだと思う。

ああ、ていうか俯いていたら狙いにくいよね。
ふと、そんな単純なことに気がつき、ゆっくりと顔を上げた次の瞬間、
衝撃とともに側頭部に鈍い痛みが走り、視界がぶれる。

なぜか自分の身体が、衝突実験のマネキン人形みたいに
反対側にドサリと倒れる姿が見えた。

即死のはずだった。
銃弾が脳味噌を食い破りながら頭の中を突き抜けていく感触もあった。

なのに、どうしてだろう・・・僕はまだ意識がある。

銃声を聞きつけてか、奴らがやってきた。

一人は僕の腕を後ろ手にして押さえつけている。
わざわざそんなことをしなくたってもう動けやしないのに。

一人は金属でできた馬鹿でかい櫛のようなものを取り出し、
おもむろに僕の口の中へそれをねじ込んできた。

喉の奥から胃や気道までぐちゃぐちゃに掻き回される激痛と不快感。
嘔吐反射と咳が絶え間なく続き、鼻や口から血が止め処なくあふれ出ている。

もがくこともできず呼吸もままならない状況で、
僕はただ、その意識が暗闇に沈む瞬間だけを待ち望んでいた・・・。


あー・・・汗びっしょだわ;
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