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いあ、いあ、はすたあ! くふあやく、ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ!
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 時刻は午前二時。
深夜の迷惑な来訪者によって急な時間外労働を強いられた洗濯機は、
低く柔らかく規則的な音を奏でていた。

溜まりに溜まった洗濯物の山に追い立てられ、
満を持して訪れたコインランドリーには僕を除いて人の気配は無く、
辺りを閉ざす暗闇の中で妙に明るいその部屋は、
まるでどこか遠い星を目指して自動航行中の船の内部か何かみたいだ。

先ほどちょうど買い物を終えたところで
そろそろ頃合かなと思って戻ってきたのだけれど、
僕が思っていた以上に時間というのはゆったり流れているようで、
残り時間を示す文字盤には赤く小さい「10分」の文字が浮かんでいた。

このまま十分間も立ちっぱなしでいるのは億劫だし、
かといって一旦家まで戻るのはもっとしんどい。
だから僕は少しの間だけその場にしゃがみ込んで目を閉じ、
得意の思索に耽ることにしたんだ。

壁沿いに立ち並ぶ洗濯機の一つに身体を預けると、
直接触れてもいない首筋にまでひんやりとした冷たさが感じられた。
けたたましくも小刻みなリズムに従って伝わってくる
その音と幽かな震動はとても心地良くて、
知らず知らずのうちに浅いまどろみに囚われそうになる。

騒音は大嫌いなはずなんだけど、
人為的なものでなければ多少うるさくても平気なんだよね、何故か。

ふと思い出したのは数分前の、たまたま僕が訪れたコンビニで
店長と思しき人間が若い店員に対し、
何やら早口でまくしたてているのを目にしたこと。

内容はまあ、古いものを前に出せとか、
品出しを朝までに間に合わせるようにとか、
そんなことだと思う。

この手の店で従業員をやったことがあれば、
同じようなことは誰もが経験するだろうし
人によっては同じような態度をとったこともあるかもしれない。
ただ、それでも僕はその光景を見ただけで強い吐き気を覚えてしまう。

指先で何度も叩くように指し示すその一挙手一投足が、
繰り返し言い聞かせ無理矢理返事を促すように問いかける声の抑揚が、
見えない力となって僕の身体を内側からグシャグシャと締め上げてくる。

分からないはずはないんだ。
誰だって、やるからには一生懸命だよ。
最初から手抜きや不正なんてしようと思ってるはずない。

本当に覚えさせることを目的としているのか?
戒めたいだけなんじゃないのか?
罰を与えたいだけなんじゃないのか?
憎悪を抱いた上で、それが指導であると言い切れるのか?

もちろん、雇う側の気持ちも理解できないわけじゃない。
投資に見合っただけの成果がなければ割を食ったと思うのも無理はないし、
そこに至るまでの過程や理屈なんて関係のない話だろう。
いかに清廉潔白かつ勤勉であろうとも、
能力が無ければ彼らにとっては利益を食いつぶす障害であり、
相対的な悪に他ならない。

それを踏まえて、やはりこの世界では無能は罪なんだと思う。
生きるのに見合っただけの力のない僕らが
それでも無理矢理生きているなんてことは、
それ自体が世界のバランスを崩す罪だと言わざるを得ない。

自分が悪いのは分かりきってるから何も言い返せないし、
かといって耐え忍ぶ胆力もない。
ないない尽くしの雁字搦めの袋小路でぽんぽこぴー。

でもやっぱりどんな理由があろうとも、
自分の邪魔となるものを「排除」するのではなく、
憎しみによって「危害」を加えようとするような態度は許せないんです。



ああもう、
なんで洗濯に出ただけでこんな気分になってんだか。
やっぱ外出たくないないお(-ω-`
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 理由も無く人を傷つけたいと思う人間なんて居ない。

それは考えてみれば当たり前のこと。

ただ、形は違えど誰もが時には
苦痛に顔を歪めながら何かと戦わざるをえないわけで、
結果的にそれが誰かへの危害という形で現れてしまうこともある。

そういった状況で最初に問うべきなのはその内容ではなく、
何故その行動に至ったかであると思う。

相手に傷つけられたから仕返しに、というなら
まずは相手の何にどういった形で傷つけられたかを明確にしなければ意味が無い。
できればそれを相手に理解させ、再発を防止するのに労力を割くことが望ましい。

ムシャクシャして腹いせに、というなら
本当にそれで自分の傷が癒えるのかを今一度考えてみるべきだ。
実際それで少しでも気休めになるというなら
無意味というわけでもないかもしれないけれど、
そうでないならまずは傷を癒すことを優先した方がいい。

目障りだから、存在を消したいから。
それは突き詰めて考えれば相手に対する、
「自分の目の届かない場所に居て欲しい」
さらには「自分に存在を感じさせないで欲しい」という要求に過ぎない。
論点は、自分がどこまで目を瞑ることができ、
また相手がどこまでその場を退くことができるかであって、
争うのは双方の利益が競合を起こしてからでも遅くはない。

大切なのは、それがいかなる行動であれ
突き詰めれば自分の利益のためのものであると認識し、
その上で自覚を持って実行に移すことだ。

相手を傷つけることは手段であり、目的ではないはず。
本来の目的を今一度再確認すれば、
あるいは争うことも傷つくことも避けられるかもしれない。

誰もが常に冷静でいられるとは限らないけれど、
かといって常に冷静さを欠いているわけではないはずだ。



んー、とはいえこれで全て説明がつかない事例もあるのよな。

私はなんか見落としてるだろうか・・・?
 犬で言えばポチにコロ、猫ならタマ、
ありふれたニックネームの代名詞ともとれる掲題だけれど、
流しそうめんのように細くて長い僕の人生の中で
その名を冠する存在はたった一人だけだ。

それはまだ僕が王都のそれなりに閑静な住宅街に住んでいた頃。

大平原の遊牧民にすら勝るとも劣らない転居の回数を誇る
いささか無駄に波の多い幼少期を過ごしていた僕は、
お世辞にも社交的と呼べるような性格じゃなかったように思う。

とはいえ所詮は都の周囲を転々としているだけだから
これといって大きな変化もなく、
ものの数週間もすれば落ち着くであろう周囲の好奇の視線にも
それなりに慣れていたつもりだった。
もしかすると子供なりに気疲れのようなものも
あったりしたのかもしれないけどね。

まあ、数年後にそれまでとは比べ物にならない戦時疎開並の環境の変化と
それに伴う壮絶なカルチャーショックが控えているのだけれど、
それはまた別のお話。

さて、例のごとく順風満帆とまで言えるかどうかはともかく
1ブロックほど離れた最寄の肉屋へのお遣いも含め
それなりに新しい住居にも適応し始めていたところなのだけれど、
ただ一つ、なんとしても許容し難い問題があった。

というのも、当時のご近所ネットワークを構成する
物理的にも年齢的にも文字通り「小さな」市民達の間では、
どこでどう間違ってそうなったのか全くもって理解不能なことに、
他人の耳に息を吹きかける行為が爆発的に流行していたのだ。

たかが子供の遊びと侮るなかれ。
時に音も無く背後から忍び寄り、また時に会話の最中に唐突に、
ありとあらゆる手練手管を駆使して四方八方から迫り来るそれは
ただでさえ物理的接触に過剰反応する厄介な特性を持つ僕にとって
かなり冗談じゃなく苦痛だったのだよ。いやマジで。

今でこそ過敏すぎたと反省するところはあるものの、
当時、息一つで悲鳴を上げて逃げ惑うその姿は、
大都会という鋼鉄の密林の中で狩猟本能を持て余す若き猛獣達にとって
吹けば飛ぶタンポポの綿毛など比べ物にならないほどの
格好の暇つぶしになったに違いない。

中でも先陣を切って最も頻繁に最も狡猾な手法で
最も力強く息を吹きかけてくる迷惑なクソガキ、
それがトシ君だった。

とはいっても、ただのガキ大将ってわけじゃない。
どちらかっていうと早熟で子供ながらに要領が良く
優等生とはまたちょっと違う形で大人受けもするようなタイプ。

当然、それは僕の親なんかも例外じゃなくて、
トシ君に任せておけば安心ねーとでも言わんばかりの、
まるでどこぞのホームコメディにレギュラー出演してる
しっかり者の幼馴染みたいな扱いだった。

かく言う僕も、そこまでしょっちゅうってわけでもないけれど、
なんだかんだで金魚のあれみたいに付いて回ることもあったし。
散々いじくり回されて逃げ分かれても
次会うときには上手いこと宥めすかされて許してるし。
っていうか僕も僕だな。昔からそういうとこは変わってない。

そんなある日、トシ君は僕を他の仲間達の下へと誘った。
今思えば一人になりがちの僕を不憫に思ったのかもしれないけれど、
だとすれば、それは余計なお世話だと言いたい。
なぜならただ僕は極端にマイペースかつ世情に疎いだけで、
仲間はずれにされてるとか寂しがってるとかじゃなく
そんな所属組織の斡旋のような真似をされても
対応に困るっていうか勘弁してください。
ひとたび足を踏み入れようものなら四面楚歌もいいところ。
たちまち僕の両耳は悪意の吐息に晒され、
やがて物言わぬ抜け殻と成り果てるは自明の理。

「大丈夫だって、今日は絶対やらねーから!」

絶対やらないと言われるともはや絶望しか湧いてこない。
十数年後の未来で俗にフリやフラグなどと呼ばれるその概念を
年端も行かない幼子の時点で体得していたというのは、
良く言えば粋、悪く言えばただの悪戯好きな
周囲の大人達の教育の賜物かもしれない。
いや、きっとそうだ。そうに違いない。

そもそも仮に君がフーフーしないとしても、
他の連中がフーフーしないとは限らないじゃないか。
っていうか、それ以外にも頬つねったり髪ひっぱったり
くすぐったりも全部アウトだぞそこんとこ分かってんのか?

おそらくそのような内容のことを散々わめき立てたと思う。

そして、断固とした態度で拒絶の意志を示す僕に対し、
この近年稀に見るお節介なクソガキは
次の瞬間とんでもないことを口にした。



「俺が守ってやるから!」



それは、長い長い時の狭間に埋もれた、黒歴史。

おそらく口にした本人ですら
これっぽちも覚えていないであろう、黒歴史。

後日、そのことを親に話したとき
本物の大爆笑というものを生まれて初めて目の当たりにしたことも、
今では良い黒歴史。

ああ黒歴史・・・。
 とある休日の昼下がり、
置きぬけのぼんやりした頭にけたたましい騒ぎ声が飛び込んできた。

徐々に意識がハッキリしてくるにつれて、
すぐにそれが隣接した建物の住人のものだと分かる。

少しだけ窓を開けようとしたのだけれど、
長いこと動かしていないせいか
真夏に放置したグミみたいにレールにぺったりくっついていて、
思ったより力が要る。

肩越しに構えた手のひらでえいっと押すと、
ミリ単位で開けるつもりが勢い余って十数センチくらい開いてしまった。
容赦なく差し込んできた外の光が暗闇に慣れた網膜を焦がし、
続いて晩秋のひんやりとした風が、
ドロドロに固まっていた部屋の空気をかき混ぜる。

僕の部屋から相手方の窓までは僅か1mほどの距離もなく
幸いにも向こうは格子状に重ねられた網入りの板ガラスだったため
こちらの姿が見られることはない。
同時に向こうの様子を直接見ることもできないが。

「この洗濯機いいじゃん、いくらしたの?」

低く、それでいて重苦しさのない、
テンポの安定した声が一際大きく響く。

ほんの少しだが、その声は旧き友人の一人によく似ていた。
もちろん、本人がこんなところに居るわけはないのだけれど。

会話の内容から察するに、
久々に会う仲の良い友人が家を訪ねてきたといったところだろう。

コトリと何かを取り出す音、それから石鹸の甘い香り。

胸の奥がトクンと微かに震える。

僕は静寂を尊ぶ。人の声も足音も息遣いさえも好きじゃない。
けれども、意味のある情報として受け取ることができれば、
それは心の深いところに出来た隙間をほんの少し埋めてくれたりもする。

ああ、そういえば僕は昔からこういうところがあったかもしれない。

とりわけ学校の帰りが遅くなった時なんか、
街灯の下に背を預け、民家から漏れる明かりをぼんやりと眺めては
見知らぬ誰かの談笑する声に聞き入っていた。

決して自分自身が満たされていなかったってわけじゃない、と思う。
少なくともあの頃は。

ただ、何とも形容しがたいのだけれど、
例えるなら水面に浮かぶロウソクの灯のようなキラキラしていて暖かい、
『ここではないどこか』が確かにそこにあるような気がして。

自分が関わること以外には
呆れるくらいプラス思考なのに、ね。
 第二次魔導戦争・・・それは読んで字のごとく
魔導師の魔導師による魔導師のための戦争なのだ。
そして第二次だから当然第一次があったわけで、
しかもそれは当然第一次の頃より技術も規模も進歩しており、
初等部の教科書に写真付きで載るような
魔法界の歴史に残る大事件なのだ。

少なくとも僕はそのつもりであったし、
利害関係という太くて脆い糸で結ばれた仲間たちも
それに見合うだけの決意と覚悟を胸に秘めて
この騒動を起こしたに違いない。そうであるべきだ。

たとえそれが蜂起から数時間ほどで
魔導師ですらないたった数人の民間人によって鎮圧され、
『暗闇の街角事件』などといういかにも地方の三流ゴシップ誌が
ページ合わせのために取り上げそうな
都市伝説めいた呼称で呼ばれることになろうとも。

そしてたった今、
その第二次魔導戦争もとい暗闇の街角事件の首謀者である僕は
敵対勢力の手によってキャンピングカーの後部スペースに拘束されていた。

後部スペースは四畳一間ほどあり、
中央の机を囲うようにして備え付けの形で座席が配置されている。
夜間だというのに照明はついておらず、
視認できるのは僕が座っている場所から机を挟んで反対側に三人ほど。
いずれも先ほど僕らと一戦交えた民間人だった。

仲間の魔導師達がどこに拘束されているか、
はたまたとっくに政府に引き渡されているかは知る由もないが、
このザマではいずれにせよ一斉蜂起は失敗に終わったことだろう。

僕はそんな彼らを相手に熱弁を奮っていた。
半ばヤケクソで。

「魔法界は腑抜けている。このままでは技術革新の煽りを受け、
やがては魔法そのものが歴史の波に飲まれ衰退するだけだ。
まずは大規模な二極化、それをもとにした階級制度が必要なのさ」

そう、全ては魔法界のため。
僕は歴史の代弁者として魔導戦争という形で引き金を引いただけにすぎない。

金で動く人間には金を、名声で動く人間には名声を餌に
ゆっくりとだが着実に賛同者を集め、
いずれは大陸全土を巻き込む壮大な計画の足がかりとして役所を占拠、
政府との交渉を有利に進める予定だったのだが。

綿密な計画の上で実行に踏み切ったはずが、結果は見ての通りだ。
闇に乗じて奴らが侵入してきたと報せを受けた頃には、
僕の首元には既にナイフが突きつけられていた。

連中がいかにして結界を破り、探知もされることなく
これだけ大勢の魔導師の監視の目を掻い潜って来れたかはわからないが、
聞けば魔導師でも軍人でも警察機関でもない、
ただの学生だというではないか。

そしてこの何の力も持たないはずの素人は、
僕が、いや僕らが何年もかけて積み上げてきた大儀を
あっさりと切り捨てるようにこう言い放った。

「くだらねー・・・お前は最底辺の魔導師だよ」

なんと、言うに事欠いてこの男、
仮にもアカデミー首席であるこの僕に対して
最底辺とはまったく聞き捨てならない。嫌がらせか?
勝てば官軍とでも言うつもりか?
敗者に人権はないのか?

「へえ、君に何が分かるって?」

頭に上りかけた血を無理矢理押し下げ平静を装うのに必死で、
紡ぎ出した言葉は悲しいほどに陳腐なものだった。
これじゃまるで負け惜しみじゃないか。

こんな奴に分かってもらえなくたっていい。
魔導師でもない奴に僕らの世界の話が通じるとは思ってないし、
そもそも臆面もなく他人を罵倒するような奴に
僕らの問題に触れて欲しくない。
バカっていうやつがバカなんですよ。バーカバーカ。

エンジン音が止まる。
目的地に到着したのか、あるいはコンビニにでも寄って休憩するつもりなのか。
唐突に音と震動が途切れたことで静寂が余計に際立ち、嫌でも緊張感が高まる。
そういえば目の前の連中の他に運転手も居るんだっけ・・・。

「分かるさ、お前がやってることはただの犯罪なんだよ。
秩序を無視して自分勝手な思い込みで力を振り回してるだけだ」

もはやただの雑音だった。
耳元を飛び回る蟲の羽音のように、不快感を催すだけの言葉。
犯罪や秩序なんて最初からどうでもいい。
自分勝手なのもとうに理解した上でやってることだ。
っていうか、民間人のくせして危険区域に乗り込んだ挙句、
中の人間を片っ端からぶっ飛ばして首謀者を車で連れ去るってのは
果たして秩序正しい行動なんだろうか。

こちらから何を言っても無駄だし、
元よりこちらも聞く耳を持たないはずだった。

しかし、次に放たれた一言には否が応にも反応させられることになる。

「それでお前が助けようとしてる相手が喜ぶとでも思ってんのか?」

「トシ君は関係ない!」

思わず声を荒らげてしまった。
それにしても、何故こいつが彼のことを知っている?

これは第二次魔導戦争。
魔法界に新たなる秩序と力をもたらす
魔導師の魔導師による魔導師のための戦争なのだ。
たまたまその先に僕の本当の目的があるだけで、
たとえ本質的には同志を欺くことになっても何ら支障はない。

まあ実のところ、大儀なんて大仰なもの背負って前に進めるほど
僕は大物ってわけじゃない。

まあどっちにせよ終わってるよね、この状況。
こいつらが善人なら僕の身柄を警察や政府に引き渡すだろうし、
悪党なら組織との取引にでも使うだろう。
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